フェズのリアド、Riad Ibn Dhalddounの豪華な一日
朝起きたのが8時半。
シャワーを浴びて部屋を出て下に下りたのが9時半。
良く寝れた?ってムスタファ。
もちろん、
朝ごはん食べる?
うん、そうする。
じゃ準備するから、そこで待ってて。
「そこ」は、昨日の夜見た両側を5メートルの客間に挟まれた吹き抜けの広間。
上が見えるようにソファに浅く座る。
普通、時間がたつのを忘れる事なんてない。日本人なんだからあんまり忘れないよね。
でも忘れた。ただ眺めていた。
それは本当に小さな宮殿だった。そして普通は入場券を払って見て帰る場所。
居心地いいわ〜。
今夜のメルズーガ行きは夜の9時。
迷惑にならないようにのんびりさせてもらおうって思いながら、その壁を眺めていた。
朝ごはん出来たよ、こっち来て。ムスタファが言う。
用意された部屋は1階の奥。
横に長い部屋に八角形のテーブルが二つ。
周囲を囲むように、たぶんシルクの生地のソファが並んでいる。いわゆるイスラム式の客間。
そこにぽつんと一人。
パンやオリーブが並んでいた。
シンプルなモロッコ式の朝食なんだろうね。ホテルの朝食ビュッフェみたいな量も種類もない。
パンとか炭水化物中心の朝食。
そういうこと。ここはリゾートホテルではなくシティホテルでもない。ゲストハウス。
レセプションへの直通電話があるわけでもないし、パリッとした白いシャツで気の利いた給仕が居る訳でもない。
気を使わずに好きにしてて、ってムスタファは言った。
ただそれだけの為に使われる空間と建物。
最高の優雅さのひとつだと思った。
まず午後の2時までホテルの写真をのんびりと撮っていた。
テラスでくつろごうと思ってたけど、その建物が写真を撮ってって言ってる気がした。
午後2時を過ぎて系列のレストランに連れて行ってもらう。
このクオリティのゲストハウスが紹介するんだから、店を探す必要もない。
当然のように美味しかった。
ただ若干難しい料理かもしれない。食事が甘いってのを受け入れるかってだけなんだけどね。
それなりに色々な料理を食べた経験と食べ物に好き嫌いや抵抗がないレベルでないと理解出来ないかもしれない。
甘い、そして辛くしょっぱく苦い。全ての味覚を感じさせる料理だった。
同じレベルの料理は、メキシコシティのサント・ドミンゴのチレ・イン・ノガダしか見当たらない。
メキシコ料理にしてもモロッコ料理にしても、知られていないとんでもない美味しい料理が存在している。
大満足した。午後3時半。宿に帰る。
オーナーからの伝言があった。
今日は、無料で泊まってくださいって。部屋は最上級のところを使ってくださいって。
なんで?
一般的に考えれば、ありえない話。
そして何の義理もない。
どうして?って聞いた。ボスは日本が好きだから、だって。
日本好きだからって言われてもね。
たぶんムスタファが撮った写真の事を、オーナーに話したんじゃないかと思うけど。
実際に今夜、メルズーガに行く気になったところだし…
ただせっかくの申し出だ。受ける事にした。ただし、ちゃんと挨拶する事が出来たら。
電話をしてくれて、ちょっと話した。
お礼を言いたい旨を伝える。後で会いましょうって事になった。
時間は決めなかった。基本的にホテルから外に出る必要がなかった。
というより、ここに座っている事が一番の贅沢だった。
夕方の5時にオーナーのアズラックさんがやって来た。
見た目は普通にいい人なおじさん。流石に、しっかりと自信に満ちているオーラは感じた。
飾ってある写真を説明してくれた。
福山雅治と一緒の写真。かなり古い。
それと高円宮が泊まったときの写真。
彼は気軽に泊まってくれといった。
だから気軽に、だけど優雅に泊まる事にした。
そしてサイトゥ−ンは宮様と同じ部屋に泊まる事になった。
もちろんタダで泊まるつもりはない。
自分なりに、彼らに必要なお礼はしたつもり。
それは、またいつか。
重厚な部屋だった。
四方に柱が立って蚊帳のあるベッド。
タイル張りのハマム。あちこちに絵画と調度品がかかっている。
浮かずに自分の部屋のように泊まれたのは良かった。
ってか寝るだけだけどね。
部屋もいいけど、広間に居るほうが楽しいからね。
みんないるし。
夕方近くを散歩した。
話しかけてきた奴がいて家を案内するっていうんで、着いて行った。
ついたのはマドラサ。アラブ音楽の学校の建物。
やっぱり中央に重厚な庭と噴水があった。
お客は誰もいない。自分と彼のみ。
そういうのも楽しい。
テラスの夕日も綺麗だった。
ただ、最後に7夕ーロ出せって言われた。
1000円くらい。たいした金額じゃない。あれだけ大きな建物をしばらく占有したのなら高くはない。
ただ後から、貰えたら取ろう的なやり方が気に入らない。
たぶんモロッコ人同士でもそういうことはあるだろうね、相当。
だから延々とこんな事になってる。
明日はまた別の場所を案内するからって言った。明日会う時間を聞いてきやがった。
お前と会うつもりはない。はっきりと言ってやらないと長くなる。
それと分かった事。
街であって10分で友達になんかならないよね普通。
本気で友達だと思ったら友達なんて言わないよね。
旅先で不安の中で友達って言われたら、弱っているときはコロッと行く。
でも「お前バカか」って言ってやらないと確実にやられる。
それと初対面の相手は余程の信頼感がなければ目下として扱う事。
どんなに相手が上だの偉いだの言われても…
その上で、品格を持って接する事が出来ないと、やられる。
日が落ちる前に戻った。
テラスでアブラヒムと大工の親父さんとその息子と夕食てか、コーラを飲んだ。
サンセットを眺めながら。完全に言葉は通じない。
それは分かっていて笑っていられた。
彼らの夕食をほんの少し分けてもらった。
たぶんこういうことで救われる。
本当に完全に人間不信になって、惨めな旅を残すところだった。
それは気持ち次第。お金がないとかそういうことでなく、自分が見知らぬ土地でしっかりと出来ているか。
租にして野だが、卑ではない。
戦後の初期に誰かが言った台詞を思い出した。
少なくともサイトゥ−ンは彼らを好きになっていたし、彼らも好きになってくれた自信はある。
とりあえずラズロックさんを待つ。けど来ない。
午後8時半。部屋でパソコンをしようかなって思ったときに夕食出来たよってムスタファ。
一皿目が
二皿目が鶏のパスティージャ。
三皿目が鶏肉団子のトマト味のタジンなのかな?
その後にメロンとグレープ。
どれもパーフェクトに美味しいレベル。
その後、ちょっとパソコンを打ってたり、写真のデータを整理してたり。
そうこうするうちに、アズラックさんが来た。
もう11時過ぎ。
お兄さんとその奥さん、それに彼の奥さんを連れて。
良かったら、新市街にお茶のみに行かないかって誘ってくれた。
彼のメルセデスの190Dで4人で移動。自分の好きな車のひとつ。
そのうちコンディションの良いの買って綺麗に乗ろうかな。
時間が時間でお店が全部閉まってて、アズラックさんの家にお邪魔する事になった。
日本で言う高級マンション。広い階段を登ってサイトゥ−ン家の1.5倍の幅はある玄関が開いた。
30畳の居間と50畳の客間。
それに3人の子供の個室。
お客さんとしてお茶をいただいた。
帰って寝る。