世界旅行の最中。スペイン、地中海のコスタデルソルでその訃報を聞いた。
浅草のサンバチーム、バルバロスのリーダーだった高橋重雄。
旅の中で、空白があったとすれば、その話をメールで読んだ数日がそうだった気がする。
 
ほんの少し覚悟はしていた、だけど元気になってるとも思っていた。
 
男が惚れる男だったと思う。
涙は出なかった。
本当に悲しい時って涙は出ない。
 
放心して、酒を飲みながら夜の地中海を眺めて、決めた。
彼の為に泣かないって。
 
付き合いの中で聞いた彼からの言葉を考えて決めた。
 
彼はカリスマになりたかったわけじゃない。
王様になりたかった訳でもない。
純粋に、自分の好きなことをやっていたんだと思う。
 
いつも言っていた。
サンバを真剣にやりたい奴見ると助けてやりたくなるんだよ、って。
適当にやってる奴が評価されるのが気に入らない、って。
 
いつでも率先して働いてた。
PA車組んだり、氷砕いてたり。
 
カリスマになりたかったり、王様になりたかったりする人のやらない事をしていた。
 
自分のやりたいことを好きなようにやっていった人だと思った。
そして、彼の真面目さや彼の生きるルールに人が魅力を感じて、集まって来たんだと思った。
たぶん、高橋重雄は誰かの為に生きるという感じとは遠い感じがしていた。
そして人の面倒を見るのが好きな人だった。
 
たぶん男として最高の生きかたかもしれない。
 
伝説にするのも、名声をどう使うかも、
たぶん後のことは残った人間の決めることだと思う。
 
ただ彼は出来ることなら、静かに去るつもりだったんじゃないかな。
「好きなことやって逝っちまった良い人生だった」って言われたかったんじゃないかと思った。
 
リーダーの家にうかがって、仏壇に手を合わせた。
世界旅行でブラジルの顛末を伝えたかった。
 
最後の1週間はほとんど笑わなかったって聞いた。
でも逝くとは思ってなかったって聞いた。
 
人に迷惑をかけるなんて、格好悪くて絶対やれるか!って人だった気がする。
 
その話を聞いて、一瞬風景が滲んだ。
ほんの少し上を向いた。
 
来年の桜の下でそんな話が誰かと出来ればいいな。