南極日記0122

22日その日南極へ
 
アルゼンチンの最南端の都市がウシュアイア。
その背中には高い山脈がそびえて、夏でも雪が残っている。
 
ブエノスアイレスから飛行機で2時間半。
東京から沖縄のくらいの距離。
日本もそこそこ広いな〜って、逆に思ったりする。
 
たぶん真夏のブエノスから冬のようなウシュアイアへ、と思っていた。
 
降り立ったウシュアイアは、そこそこ暖かい。
たぶん、東京から北海道へのフライトくらいの感覚じゃないかなって思った。
違うのは、向きが南へ向かっている事。
何となく、それは分かる。何でかな。北に行く寒さと違う感覚。
 
出航まで時間があるからかな、ナショナルパークを廻って、ウシュアイアの街で散歩。
極南の街にしては、明るい日差しが降り注ぐ。でも見上げれば雪の残ったスイスのような、カナダのような山が連なっている。
 
夏のウシュアイアの港。
南極行きの船がいくつか並んでいた。最近では大きいとは言えないけれど、それでも桟橋に舫いでいるフラムは大きく見えた。
フラムはノルウェー籍、フッティルーテンの船。
 
グリーンランドスピッツベルゲン、そして南極を回遊している、冒険仕様の客船。
振らぬの名前は、アムンゼンが北極を目指した船を継承した名前。
 
そんな、ちょっと前に読んだ知識を思い出しながら背筋を伸ばす。
 
簡単なパスポートチェックを済ませて、港のイミグレーションを通り抜ける。
出国スタンプとか無い。
南極っていうのが、なんていうか出国ではない。

どこの属域にもなっていない。
まあ戦争になるかもしれないね。資源の争奪戦とかね。
 
話は戻って、イミグレーションを抜けてフラムへ歩いて行く。
チェックインは簡単。
スーツケースはブエノスアイレスで預けた。
そのまま部屋の前に置かれる。楽ちんで良い。
 
無事にここまで着いた気分もあって、ホッとしてベッドへ倒れる。
窓の外を乗客が行き交う音がする。
 
地球の、日本の裏側にいる実感が沸かない。
でもここは、季節も時間も逆な場所。アルゼンチンの最南端。
 
そして描いていたイメージとは全く違う、地の果てというには美しい場所だったのだ。
 
エンジンの音が少し大きくなる。
床に振動がほんの少し伝わる。
 
窓の外でゆっくりと景色が動き始めた。
南極旅行が始まったのだった。
 
ビーグル水道を通り抜ける。
思っていたのより、ずいぶんと広い。
1時間くらいかな、両側に海が広がる。

船はゆっくりと揺れ始めた。
気持ちの良い揺れ。
ドレーク海峡に出た、たぶん。

船の後部から南アメリカ大陸がゆっくりと小さくなっていく。
天気は快晴。
フラムは大きくゆっくりと揺れながらドレーク海峡を進んでいくのだった。
 
陸地がだいぶ離れたあたりで、ウェルカムパーティ。
 
操船クルー、エクスペディションチーム、レストランクルーの挨拶。
船長の背が抜きんでて高い。195センチくらいかな。
でもって笑わないので、ちょっと怖そうに見えた。
 
エクスペディションチームのリーダーは女性。
アニャって紹介されてた。
短めのブロンドで、笑顔が可愛い人。
にしてもツアーリーダーとはやるもんだと思った。
他は大学の教授とか学者さんで構成されてて、それぞれが海洋学や南極の地理とかのセミナーを受け持つ。
 
午後から海鳥のブリーフィングをデッキで行うって放送。
レストランの上のフロアで鳥を見る。
お客さんは、望遠レンズを付けて鳥を撮りはじめた。
 
一眼レフを持っている人が多い。
そりゃ南極だ。気合いも入るってもんだろうね。
ペンギンやアザラシや氷河にクジラ。
うずうずするんだろうね。
 
まだ気がつかなかったんだけど、ドレーク海峡は、ゆったりとうねっていた。
うねりが大きかったんで気がつかなかったんだけど、徐々に大きくなってきていた。
 
夜になって、うねりは大きくなった。
だいたい2メートルくらいかな。ゆったりとだけど左右にも大きく動く。
 
たぶん南極半島近くまで揺れるんだろうな〜。
でもさすがにフラム。軋む音なんてしない。
ただ揺れているだけ。
 
時差とかあるのかな、浅い眠りを繰り返していた。