ウルル・エアーズロックに登って地球のでべそから見える風景

今日が、ウルルに登れる最後の日。
さすがにちょっと焦る。
レセプションに行って、風の話をする。
多分大丈夫って返事。
気休めでしかないのは分かる。でも旅行者にとって、そんな言葉でもホッとする。
 
晴天、乾いた風。気持ちのいい涼しさ。
日本人らしい人が話しかけてきた。
ここでワーキングホリデーで働いているとの事。
 
何度も行こうと思って、いろんな言い訳をつけて行かなかった事を思い出す。
まずやる。考える前に一歩だけ前に進む。
そうしないと、何も進まないで終わる。
お金なんてなくたって、何とかなる事は多い。
 
そんな事を実感したのは30代の終わり。実際に動けるようになったのはそれから数年かかる。
どんな事でも、初めて壁を越えるまでが一番大変。
一度越えた壁はもう壁ではなくなる。
 
バスを待つ15分くらい、一緒に話す。
いいな〜、って思う。就職なんかすんなよ、って思う。
 
ウルルに到着。
ゲートは開いていた。
ウルルの登り口は、平らな駐車場の先に突然岩がある感じ。正確に言うと山がある感じ。
一歩目からいきなり30度以上の角度でそそり立つ登山道。道沿いにチェーンが付いている。50メートルくらい登って、息があがる。急坂すぎ。

休憩しようと振り向いた。
声が出なかった。
スカイダイビングみたいな気分。
まっすぐ後ろにチェーン伝いの登山道。これだって急なのに尾根になっていて両側とも崖になっている。
 
足がすくんだ。たった50メートルで降りようと思った。
他の登山者が息が上がりながら登っている中で、しばらく座ってみていた。
フィリピン人のおばちゃんから声をかけられる。
すごいわね〜って感じ。
彼女は、娘がオーストラリアで働いてて、1週間の予定で遊びにきたとの事。
後ろに娘さん、カメラを構えてる。海外を個人旅行すると分かるけど、発展途上国の、そこそこお金持ちと出会う。彼らと話して思うのは、テレビで放送される発展途上国の人のイメージではないということ。

登り口が、つるっとした感じの一枚岩ウルル。たまに落ちて死ぬ人もいる。
両側崖の尾根という感じの登山道を考えれば、十分納得出来る。

呼吸が戻ってきたので、また登る。ちょっと慣れた。基本的に突風が吹くとか、足を滑らすとか、膝がガクついて転がるとかしない限りは大丈夫だと分かった。
怖いけどね。
 
ゆっくりと歩いても、急坂。また50メートルくらいで休む。
上から、お尻を付いたまま降りてきた日本人の女性と会う。
上どうですか?と聞く。
いえ、怖くて登れなかったの、って返事。
気持ちは分かる。
分かるけど、これで覚悟が出来た。同じ台詞は言いたくない。
まあ、そうでなくても登っただろうけどね。
 
ウルルが一番怖いのは、麓からある程度の高見まで行って平らになるまでの200mくらい。そこまでは急坂で両側が谷のようになっている。
そこを越えると、急になだらかになる。要するに縁を抜けたって事なんだけど。
 
ウルルの丘の上、全方位で地平線まで見える。視野の1/2が空。
同じ風景が見られるのは、船でも難しい。
そこで聞こえるのは風の音。そんな中、緩やかな坂を上っていく。
道の近くには小さな岩のくぼみがところどころある。
そして、そこに水が溜まっている。
 
ちょっと驚く。こんな岩の上に水があるって事。
覗いてみる。白い小さな魚が泳いでいた。1cmくらい。
実際、魚なのかは分からない。でも水の中にいる。

生命力というか、とにかく生き物が生きるという本能みたいなものにちょっと感動する。
 
1時間ちょっとで、ウルルの頂上に到着。
周囲を散歩する。雨が浸食したのだと思うけど、岩が少しえぐれて乾いた川になっている。そこには岩の欠片が溜まってちょっとだと砂のようになっている。
そんなところに木が立っている。
 
ふと思う。木や魚だけじゃなくて、人も住んでいる。
アポリジニ。この土地に根付くというのは、相応に力強くなければならない。
 
単純に、生き物の対応力に驚くのだった。